第4章患者の満足を調べる(アンケートの作り方)

第4章 患者の満足を調べる(アンケートの作り方)

アンケートは、エルゴノミクスというよりは別な分野官能評価や心理学で扱うものである。しかしエルゴノミクスではよく利用されるのでここで述べておく。

人間はなんらかの刺激に対して応答(アウトプット)は、言語表現か行動(しぐさ、体動)によって行われる。それぞれに対する測定の方法を表4.1に示す。

 

表4.1言語表現と行動(体動)

 表4.1

アンケートを用いる機会は、エルゴノミクスでは、非常に多い。アンケートの制作から結果の統計的な解析は、官能検査という分野である。

看護エルゴノミクスでは、作業姿勢がつらいとか楽であるという評価もあれば、病院の満足度を評価するといったように、さまざまな評価を行なう。評価には、尺度(スケール)が必要である。

スケールは、アンケートの中の主な構成要素であり、それを用いて被験者に応答を求める。この応答は、図4.1のように○を記入することで行うことが多い。

 図4.1スケール

 

図4.1  評価に必要な尺度(スケール)

 

上のスケールは、双極型スケールと呼ぶ。双極型スケールでは、反対語を並べることで判断の便りとする。これに対して、図4.2 アンケートは、単極型の例である。病院の調査では、単極型が多い。しかしたとえば座り心地や味覚などを詳しく調べる際は、双極型もよい。

 

 4.2 アンケートの作り方

アンケートの制作のポイント

図4.2のA,B,Cのように3つある。

 

それぞれ、以下のような内容である。

 

A: 調査の名称、調査年月日、記入者の名前

B: 本体

C: 最後に お礼、調査者の名称、問合せ先

 図4.2アンケートの作り方

図4.2 アンケートの制作のポイント

応答は図4.1のようなスケールに記入する方法から自由記述方式までさまざまである。実例は演習資料にある。

図4.2の本体をスケールに記入する方法が採用されたとする。スケールには、質問項目と評価用語が必要である。たとえば、以下の通りである。

   質問項目: かたい、軟らかい

   評価項目: 非常に、かなり

   スケール

   総合評価

 

   スケール 
総合評価

具体例を示す。

単極型の例

臭気の強さの判定:次の4段階でにおいの強さを判定する。

0:臭気として全く感じない。部屋の臭気と区別がつかないレベル。
1:臭いの特定はできない、部屋の臭気とは違う臭気であることだけは分かるが臭気の種類が具体的に表現できないレベル。
2:わずかに、臭いの種類が判別できる。注意深く臭いを嗅いでみると、かろうじて臭いの種類が表現できるレベル。
3:はっきりと明瞭に、臭いの判別がわかるレベル。
4:3以上のレベル

次の図は、双極型の例である。

 

図4.3双極型の例 

                                     図4.3 マットレスの寝返りのしやすさの場合

 

4.2.判断のモデル: 絶対判断と比較判断

 

物事の判断のベースになるのは比較である。社会生活の中では判断が行われる機会が多いが、こうした判断は二つに大別することができる。1つは絶対判断、もう1つが比較判断である。絶対判断は、比較の対象が存在しない場合に行われる。単独で見て、良いと判断する場合である。比較判断は反対に、比較の対象が存在する場合に行われる。複数の対象物を比較し、一方が他方よりも良いと判断する場合である。我々が普段何気なく行っている判断は、この比較判断と絶対判断の2つに大別されるのである。

 

 4.3 あいまいさ ファジーモデル

 

ここでエルゴノミクスにとって重要となる考え方を一つ紹介する。あいまいという概念である。学問では、ファジー理論で扱われる。ファジー理論とは、言葉や意味の持つ曖昧さ (fuzziness) を扱う理論である。看護のなかで、たとえば患者とのコミュニケーションには、様々な曖昧さが存在している。

たとえば、病室の温度がある。過ごしやすい気温というのは各々が持っているし、人間共通の過ごしやすい気温はあるに違いない。しかし、その温度は、数値で何度から何度までと言い難い。

ここでは例として「中年」という言葉を取り上げる。この言葉は様々な場面で使用されるが、具体的な年齢というものは存在せず、曖昧な概念を表わしていると言える。

 図4.4中年直線

                        図4.4中年を表わすグラフ (直線)

図4.4のように「35歳をもって中年になる」あるいは「55歳をもって中年は終わり」とは言えない。エルゴノミクスでも中年・老年といった議論はよくなされるため、こういった概念をどう扱うかは重要である。他にも椅子の座り心地、料理のおいしさ、素材の堅さなどは同様に曖昧な概念である。曖昧さは様々なものにつきまとう。そえをどう処理するかは、視覚情報の取り扱上も重要である。

 図4.5中年曲線

                                                 図4.5 中年を表わすグラフ (曲線)

 

図4.5では曖昧さを表現するため、グラフを曲線にすることで中年度を度合いで表わしている。45歳で中年度が100%になっている。同様に若年や老年のグラフを重ねることも出来る。一つの曖昧な概念を度合いや曲線、比率で考えることによって曖昧な現象・概念を処理することがファジー理論の第一歩である。

 

表4.2は過ごしやすい気温に関するアンケートの結果を表わしている。18度と20度を中心として曲線を描く。

 

                        表4.2 過ごしやすい気温に関するアンケート結果

 表4.2過ごしやすい気温

 

 

図4.6は、表4.4の表の度合いを単にグラフにしたものである。

 

 図4.6気温結果 

                 図4.6 過ごしやすい気温に関するアンケート結果のグラフ

アンケートを使う時の工夫として、度合いで答えてもらうのは一つの方法であると言える。例えば椅子の座り心地については、「絶対」に座り心地がよいとか、悪いとかとはなかなか言えない。「絶対」は、使わずに、「多少座り心地はよい」などと曖昧に表現することの方が多い。料理のおいしさについても同様である。そのためこのように曖昧さを処理するのがファジー理論である。