シリーズ 人間工学(エルゴノミクス)とは その3 参加型人間工学

このページは執筆中ですが、3月18日 日本人間工学会看護部会において 発表 「臨床研究における参加型人間工学の応用例」

として整形外科診療所の待合室を腰痛患者にやさしく設計するための臨床研究を参加型人間工学を応用して行った例を報告しました。2012.4.22

 

 どのようにして、人間工学の立場からものを作ればよいのでしょうか。たとえばキッチンナイフを作るとすれば、刃物のことなど専門メーカが熟知しております。一方日ごろキッチンナイフを使っている人たち(ハウスメーカー・・・・最近アメリカでハウスワイフというと怒られる場合が出てきました・・・調理師)がおります。それに引き換え筆者はメーカほど専門知識もなく、調理もできない。そのようなときどうすればよいのでしょう。すなわち人間工学の立場からどのようにしてものを作ればよいのでしょうか。

それがあるのです。どのようなことにも、根本的に二つの立場があります。

     PE 

 

両方の立場は、本来密接にかかわるべきですが現代においてはそれが疎遠になっている場合がほとんどです。そこに人間工学が介入(intervention)することにより、両方の立場の人たちが大きなメリットを受けることができます。このような考え方を、パーティシパトリ・エルゴノミクス(Participatory Ergonomics: PE) 日本語で、参加型人間工学と呼びます。日本発の方法です。いまや、全世界で使われております。すでに紹介しました、キッチンナイフの開発もこの方法で行いました。その方法は二つあります。一つは西欧型もうひとつは日本型です。

 西欧の職業的な社会では、専門性が行動の規範に強く影響しているようです。そのため、プロジェクトに参加するメンバーは自分が分担する役割と責任や義務の明確にすることを、プロジェクトの管理者にの求めます。キッチンナイフの開発では、プロジェクトのメンバーが各国にまたがっておりました。参加のメンバーとどのようにコミュニケーションをとるかにだいぶ時間を割きました。

日本では、人々は集団志向的であり自らの属する集団に自発的に献身することが、日本人同士のつながり方を特徴づけております。これが、PEの土台である小集団活動はこのような日本人の特性をよく表している活動でです。 いずれにせよ大事なのは、意思の疎通です。今年8月からスタートした腰痛にやさしい椅子の開発プロジェクトでは、各地域に分散しているメンバーの間で、ビデオ会議を行い情報の共有を図っております。                         以上の内容の一部は、2009年にドルトムントで行われたドイツ人間工学会(GfA) の基調講演の一部です。

“Participatory Approaches and Future Developments of Product Ergonomics Design”

2009.Dortmund

キッチンナイフのパーティシパトリ・エルゴノミクスのメンバーを下に図示します。

 PEcircle2

 

 

パーティシパトリ・エルゴノミクスで行ったキッチンナイフの開発を紹介します。

 

どのようにして、ものを作れば、使いやすさや快適性が設計できるのでしょう。百聞は一見にしかずです。私が関わったものづくりの現場の写真を三つお見せしましょう。  

その1 キッチンナイフのハンドルの形状の開発

 この5月24日に私がナイフの専業メーカー藤寅と開発したキッチンナイフ「Ergos」が発売されました。このナイフのハンドルの造形を例にとりましょう。写真1をご覧ください。

写真1 粘土で手の型採取

写真1 粘土で手の型採取

 

写真1の左は、「型どり」です。手のひらとハンドルが接する面を作る大切なプロセスです。デザイナーの場合、このプロセスを経る場合もありますが、絵を真っ先に描く方法すなわちイメージ優先も多いようです。型どりの時のハンドルの握り方は、調理法により変わります。手の大きさも大小ありますから、この作業は、エルゴノミクスの方法である人体計測データベースや調理法の知識が必要です。この写真の粘土の芯として木の棒が見えます。写真1の右は、手を離したときの「型」です。この型の形状を測定します。この場合の木の棒は八角形です。この形は写真2の和包丁の高級品と言われている八角和包丁からです。

八角和包丁

八角和包丁

写真2

八角形の長所は、理で握ったとき手懸かりがあること滑らないことです。 開発において、八角形の各稜線が座標として使えるので手のひらとハンドルが接する面の計測や設計に便利です。造形のためには、粘土や石膏を使います。椅子の座面や背当ての場合も似た方法を用います。

手を離したときの「型」(写真1の右)から、スケッチや図を描きます。次の図は、ナイフハンドルの場合です。修正箇所について色々な書き込みがしてあります。これを図面に描き直します。

 

ハンドルの図面

ハンドルの図面

写真3 図面化

試しに製作した樹脂モデルを評価します。とくに接触状態を測るのがポイントです。そのほかに日本人や海外の主婦やシェフの使用感を確かめます。

ハンドルと掌の接触

ハンドルと掌の接触

                                 写真4

最後に完成品を示します。

キッチンナイフの完成

キッチンナイフの完成

写真5 

                        刀身 モリブデンバナジウム鋼

                        ハンドル エラストマー樹脂