人間工学物作り その3 椅子

日本人間工学会特別講演の最後のパート

人間工学による物づくり 事例2 椅子

 

顕微鏡手術執刀医作業の特徴は次のように要約される。

1)足は浮かせて装置の操作。2)椅子の座面が、大腿部に食い込む。3)手は支えなしに執刀。4)後ろに寄りかかれず腰の支えなし5)首は顕微鏡を覗き込み固定。6)長時間の拘束

開発にあたり参考とした研究は1 過去の開発例4) 2 禅寺での座禅姿勢測定の結果14)について、3また大臀筋にコンフォートの感覚受容器の多くが存在すると小規模の神経内科学的調査に基づいて仮定した。2)

座禅におけるサポートは、座蒲により仙骨周りがサポートされるのが特徴である。図4にそれを示す。

図4

 図4 座蒲による仙骨周りのサポートA 座蒲 B 代表的なcontour 実際は3次元曲面である

ランバーサポートでは、腰椎部を前方・水平に機構的に押すのに対して、座禅におけるサポートでは臀部の一部仙骨周りにテーパーを付けることで、座る人の自重で上方へ圧を加える方法である。

これは、1948年のAkerblom5) 以来の”free space for sacrum and buttocks”と全く異なる方法である。日本では、13世紀から使われている。

表1にサポートについての理論の変化を示す。

表1 サポート研究推移:ランバーから仙骨へ

表1サポートの推移筆者による追加: 上の表の最後のマイアミでの報告の帰途(7月)、UCLA  のゲストハウスに滞在してのんびり過ごしつつ Rani Lueder と論文の執筆や討論を行い完成された原著論文が アプライドエルゴノミックス誌に掲載が決まった。

Noro, K. et al. Application of Zen sitting principles to microscopic surgery seating, J. of Applied Ergonomics, in press 2011  7月末から有償31.50ドルでダウンロードできる。以下のサイト sciencedirect を参照されたい。

 http://www.sciencedirect.com/science?_ob=ArticleListURL&_method=list&_ArticleListID=1793521397&_sort=r&_st=13&view=c&_acct=C000050221&_version=1&_urlVersion=0&_userid=10&md5=70f697e184536d0ca4cce1fe2927e60f&searchtype=a

開発にあたり参考とした研究に基づく造形のコンセプトは、臀部のコンフォートゾーンを最大限カバーする3次元のシェルである。

 

このようなアプローチは、骨格モデルから筋モデルへの移行と考えられる。物作りは、臀部の形状の測定から、クッションの張り込みを経て表皮で覆う過程である。 

物作りは、シェルについては、臀部の形状の測定から、クッションの張り込みを経て表皮で覆うといった過程である。どの作業も座り心地の向上と負担の軽減に影響する。

身体各部の物理的特性11)とクッション特性のマッチング(インピーダンスマッチング)によるクッションの選択を行った。(表2)

表2 用いたクッションの物理特性

表2各部クッション特性

評価実験 12人の眼科外科医の実際の手術を対象とした。図5は代表例である。

                                   図5圧力面積比較

          図5 現行椅子と試作品の比較 実際の手術における測定値 被験者女性 84.2%タイル

比較結果(図5)は、試作品が有利であった。試作品は現在手術場で使用中である。

この物作りと実験から得られたモデルは、座り心地の生理学的なモデルと言える。図6にそれを示す。

図6 生理学的モデル

 

                               図6 座り心地の生理学的なモデル 

  終わり 講演のまとめと引用文献は後日upの予定