日本人間工学会第52回大会特別講演会の一部

商品として販売されることを目的とした物作りを扱う。

鍵1 経済案件の処理 

最重要の項目は経済に関わる多くの案件である。投資はどこが負担するのか。想定される販売金額と数量など解決しなければ進まない。他方、物づくりが実現すれば、雇用の増大にもなることが意義深い。

物作りとして関係の深い工業デザインに対して人間工学はどこで強みを発揮するかというと、一つは、人間の構造や機能とくに筋骨格系や姿勢の知識については人間工学が強いはずである。もう一つは、科学的な根拠を測定データで示すことである。

特許・実用新案等は私見では必ずしも必要ではない。筆者の場合基本特許のみとしている。さもないと経営を圧迫する。筆者は特許取得より論文執筆に重点を置いている。

 鍵2 中小企業に目を向けよう 

大学の人間工学研究は、政府機関と大企業を相手に行うことが多い。その恩恵を受ける企業や人に偏りが生じてしまう。これをErgonomics divide という1)。Noro et al1)は、2005年までの10年間の椅子に関わるHFES(Human Factors and Ergonomics Society)の報告27/32がオフィスのためのものであると報じている。(残る5つはRacial and ethnic differences)  中小企業が得意とする生活用品は人間工学の研究と無縁である。物作りでは、中小企業に目を向け、いままで人間工学の恩恵を受けていない商品の開発を目指すとさまざまな発想が出てくるであろう。

 鍵3 国際商品を目指せ 

開発当初から国際商品を目指すことが経済効果のうえでも望ましい。国際マーケットの開拓は、企業の行うことであるとして人間工学の立場からどのような援護が出来るだろうか。一つの方法として海外誌への論文掲載を目指すことがある。無関係の様であるが、科学的な根拠を測定データで示すことがバイヤーや市民の信用を高めるとすれば、これは当然のプロセスである。他国の例として、北欧製の椅子が市場で高い評価を得ている。デンマークの研究者が座位姿勢の先駆的な研究を1940年代以降行ったことと無関係ではない。

 鍵4 造形が決め手 

造形は原材料の選択と固有の工法が関係するので重要である。工法には複数の候補がある。人間工学として、最良の方法を提案すること必要である。最終的には、メーカーの工程能力を考慮することも大切である。実際に現場に行き、職人とコラボレーションするといった楽しみもある。メーカーの造形の過程は、コンピュータ支援設計(CAD)により画面上で製図が仕上げるのが通例であるが、たとえばグリップの形状や表面のテクスチャなど実物が必要なことが多い。また日本人ならではの感性が活きる過程である。研究的には論文にしにくい過程である。

 鍵5  理論と方法の構築

既存の人間工学の理論や方法論は、物作りとは無関係なことが多い。たとえば試作品の造形には多額の費用がかかることから、実験計画法に基づいたバランス型の実験など行うと原価を高くするので出来ない。評価法も物作りのための方法が望まれる。商品のサイズも国際商品を目指すメーカーは、one-size-fits-allを理想とする。たとえば、世界の95パーセンタイルをカバーする設計が、90パーセンタイルよりも優れているとする考えでよいのだろうか。もっとユーザーを特定した商品の開発も必要である。Noro et al2は座禅で行われるA primary user conceptを提案している。一つの対案であろう。