1 なぜ骨盤の傾斜を測るか

 

人の姿勢は、外から見て分かります。また、その姿勢が健康上良いか悪いかおおよそ察しが付きます。そのような姿勢を記録する装置は様々あります。ここで述べる装置は、骨盤と背骨の関係に着目した方法で、とくに骨盤の角度を測ることで、そこから姿勢特に腰椎の彎曲の様子を知ろうというものです。

背骨 (脊椎) は様々な骨が積み木のように積み重なって出来ていることが分かります。脊椎の一番下の部分(仙骨他 せんこつ)は骨盤と癒着 (ぴったりくっついていること) しています。座る姿勢をとると、図1のように骨盤が傾斜(回転とも言います)し、骨盤と背骨の仙骨の部分が癒着しているため、脊椎も曲がらざるを得ません。

まずX線で腰部を撮影した写真です。

 写真1  骨盤座布団

 

 

写真1 骨盤ざぶとんを敷いたときの骨盤・仙骨そして腰部のX線写真(撮影 山口県総合医療センター豊田耕一郎医師)

 

標本で見てみましょう。

 写真2脊柱と骨盤

 

写真2 脊柱と骨盤の標本

以上について、今度は、立位から座位に変わった時の骨盤、仙骨、腰椎、大腿骨の様子です。

 図1骨盤の傾斜の変化

 

   座位              立位

図1 姿勢の変化に応じた骨盤の傾斜

 

図1において、立位から座位に変化すると、脊椎の彎曲が失われ、フラット (平ら) になります。

従って骨盤の動きを見ることで、脊椎のカーブ(彎曲)もある程度類推することが出来ます。骨盤の動きをセンサー(ジャイロセンサ)でとらえて見ることにより、人間の様々な動きが分かるわけです。この方法の特徴の一つは、長時間にわたって測ることができることです。その例は、新たな構想のバックレスト(背当て)に応用されております。眼科手術用椅子のページの写真4 を参照ください。

X線撮影とジャイロセンサを用いた骨盤傾斜角測定を同時に行い,X線撮影による仙骨の傾斜(sacral slope)と骨盤傾斜角測定による骨盤傾斜との相互の関係を確かめてみましょう。 (ここは追加2013.5.19)

角度計とX線

                  立位                             座位

図2 X線撮影による仙骨の傾斜(sacral slope)と骨盤傾斜角測定による骨盤傾斜との相互の関係

右の画像のL2 付近に角ばった影がとジャイロセンサ(骨盤傾斜角度測定器 特許第3928103号)。

X線撮影は、とよた整形外科クリニック(山口)の低被ばく型デジタルワイアレスX線撮影装置による

 

2 装置の説明とデータの見方

図2は、座ったときの骨盤の二方向の回転 ピッチとロール の説明である。

 

 図2ジャイロスコープの動作

 

図2. 座ったときの骨盤の二方向の回転 ピッチとロール

 

 骨盤傾斜角センサーの装着の方法を図3に示す。

 図3骨盤傾斜角センサーと骨盤

 

                  図3. 骨盤センサー ベルトによって身体の骨盤の位置に固定されている

センサーは、振動ジャイロおよび加速度センサーを各3個使用した超小型の姿勢方位角検出センサーであり、デジタル出力が可能である。

 ジャイロスコープの画面表示の説明を図4に示す 。 

図4ジャイロスコープの表示 

 

図4骨盤ジャイロスコープの画面表示

 

 

人間が前傾すると、すなわちピッチが変わると、ジャイロスコープの赤い部分が上に上がってくる。同様にリクライニングすると、下がってくる。上の部分の面積が変わるわけです。

この表示は、主に実験の最中に、被験者の姿勢のチェックのために用いております。次の写真をご覧ください。実際には、ご覧のように小さいのですが、大雑把なチェック程度に使っています。

写真3手術室における姿勢のモニタリング 

写真3 手術室内での眼科手術中の術者の姿勢のモニタリング(左)右側の画面は体圧分布のモニタリング 宮崎大学手術室

測定をした結果はコンピュータにデータとして保存されるので、それをグラフにしてみます。 その例として、別のページに仙骨サポート座布団の場合を紹介します。

 

骨盤傾斜角の値の目安

早大野呂研究室では、1998年 Wu(呉 奇勲)によるergonomics 誌の論文発表をはじめとして、この装置は、長い年月使っております。また、ほとんどの自動車会社でもシート開発に利用しているようです。そのような実績から出した目安値(ピッチのみ)を図5に示しておきます。

 図5骨盤傾斜角度J

 

図5 骨盤傾斜角(ピッチ)の値(中央値)の目安

出典 Noro,K., Developing seating designs that support traditional Japanese sitting postures, (Schlick ed.) Industrial Engineering and Ergonomics, Springer 2009

 

この装置は、小さなアルミ製のトランク収納されており、記録用のPCとともに簡単に持ち運び可能です。今(2011年末)も山口の病院へ宅急便で送られており明日からの実験に使用が予定されております。

 3 骨盤傾斜角と体圧分布の関連性

最後に、骨盤傾斜角と体圧分布の関連性を述べましょう。図6はその例です。

図6 骨盤傾斜と体圧の関係 

図6. 骨盤傾斜角と体圧分布の関連性

出典 Noro,K. et.al , A Theory on pressure and seat discomfort, Vink ed. Comfort and design, CRC Press 2005

 

グラフはロール角の変化すなわち身体の左右の動きを示しています。上下が角度を表わしますが、途中で大きく、左右に身体が揺れて動いている部分Bがあります。その前後AとCとを比較しますと、AとくらべてCの角度が少し変わっていることが分かります。これを体圧分布と並べてみると、大きな変化の前のAの体圧分布では、座骨結節の部分の圧力が高くなっております。

 

Bで大きな動きが起きます。その後ではCの図のような状態になっている。非常に均等な分布になっており、圧力の高い部分がほとんど消えています。 これは、座り直しという行動です。この場合には座り直しを人が自発的に行ない、座り心地を改善している様子が、まざまざと窺い知れるわけです。

 

このように体圧分布と骨盤の傾斜角の両方を見てみると、前の段階ではお尻が痛かったのが、身体を左右に動かして座り直しをすることで解消された、という状況が分かるわけです。

体圧分布と骨盤の傾斜角の両方を一緒に測定することにより、多くのことが分かります。

 

謝辞 豊田耕一郎先生からX線写真の提供をいただきました。

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