経営者が望む人間工学とは 台北テックでの講演 2017.7.31

この講演は、台湾人間工学会の主催で行われた。参加者は、台北と台中の大学と国立研究所の先生方である。

実験と製品化人間工学の日本における現状

ー早稲田大学発ベンチャ企業社長と教授としての10年間ー

感謝

2016年の熊本地震への高額な援助金への感謝を表明

講演の意図

中華民国(以下台湾と呼ぶ)と日本の経済交流は今までになく盛んである。これを支援する人間工学を推進したい。そのために、大学に籍を置きながら、企業を経営することモノ作りしている者としての体験を述べる。

1 実績

まずは、大学の教員として、最近の教育指導について。 実物教育を行っている。上述の「大学にいながら企業でモノづくり」を生かしている。

DSC04969 写真1 ミュンヘン応用科学大学デザイン学科での講義

企業人としての製品開発の実績

Daimlar  運転の直感的操作のためのコックピットの開発研究  2006

写真は、長野県駒ケ根市内に置かれたヴァーチャルドライビングシミュレーター

DSCF0341縮小写真2 Daimlar コックピット開発のための装置 操縦者は、ダイムラーのスタッフ

JAL 客室シートの開発研究 2007

DSCF0130縮小写真3 研究室内に設置された客室のモックアップ

最近のもの作りは、椅子と枕

プラネタリウム劇場のための椅子 2015

手術と診療室用の医師椅子 2017.10月 完成予定

ものづくりの特徴は、医学とくの臨床医学とのコラボレーション(後述のビジネスモデル)

誇りは、ロングライフ商品が多いこと。最長は、骨盤座布団 2004  ペン 2006

である。

2 日本の人間工学の現状

以下は、個人的な感想にすぎない。しいて言えば企業人としての学会へのリクエストである。

(1)企業への最新の研究成果や手法の広報が不足している

過去数十年間に、諸大学の講座・講義数は大きく増加。人間工学受講した卒業生は多く、いまや40歳代30歳後半の働き手が企業の人間工学を支えている。言い換えれば、学会や大学の人間工学の助けは必要としない。これは良いことであるが、社会や科学技術の進化の応じた人間工学の革新もあるはずだから、それをもっと広報するべき

(2)健康へのアプローチが不足している

日本の人間工学の基盤は、電気生理学である。応用として労働科学がある。健康というと、臨床医学である。

伝統的に、臨床医学とのコラボレーションが不足している。例えば、寝具と睡眠の関係は興味深いテーマであるが、人間工学サイドからの最近の貢献例は少ない。

3 産業に貢献する製品化人間工学

製品化人間工学(product ergonomics)の必要性

経済と産業を支援するための人間工学は重要である。その一例として、旭硝子が革新的な特性のウレタンフォームの米国に進出するために行ったマットレスの寝返りのしやすさの研究(the Human Factors and Ergonomics Society 53rd Annual Meeting 2009年)が挙げられる。次の写真は、旭硝子による実績の1例である

FIFA 2013写真4 旭硝子が製作したサッカー選手のための椅子 新開発のスラブウレタンフォームを用いている

FIFA 2013

競合相手としての工業デザイン

いま、製品化人間工学が歩もうとしている道を、4-50年前に工業デザイナーは開拓した。例えば、政府によるグッドデザイン賞制度の設立がある。(・・・年)対して、人間工学は、大学に研究室を設け、多くの学生を指導することで発展してきた。そのため顧客(企業)獲得や広報の手段を知らない。(消費者向け)商品の場合、意匠デザインが優れていることは、ものが売れるために消費者を引き付ける重要な要因であることが日本企業の通念となっている。これに人間工学研究を加えることは、商品のコストを上昇させることで、それは企業が嫌うことである。企業獲得の上で、工業デザインに対して人間工学はどこで強みを発揮するかというと、一つは、筋骨格系や姿勢の知識については人間工学が強い。もう一つは、科学的な根拠を測定データで示すことである。

4 学生の教育と指導において要求されること

以下は、一人の企業経営者として、これからの人間工学教育に対する要望である。教育手法としては、ビジネスゲームが良いと思う。

従来の人間工学に加えて

製品コスト低減の手段を学ぶ

売れる商品の作り方

市場についての知識

関連会社・工場・職人たちとのコミュニケーションの方法

原材料の知識・加工法

図面の味方、制作法

パッケージング

商標や意匠・特許についての知識

販売のルートや方法についての知識

などである。

5  弊社のビジネスモデル

5.1 リサーチサイド  医学―工学モデル

写真5は、弊社のTop ページの原図である。このモデルの発想は、サンフランシスコ 2015 IE Summit Conference ” Medical ergonomics: product development based on collaboration between medicine and engineering”

Kageyu Noroa,*, Hideki Oyamab, and Koichiro Toyodac

で初めて公表されたモデルである。このモデルのキーワードは、アライメント という医学用語である。若干の解説を講演では追加したが、ここでは別な機会に譲る。

アライメント1

写真5 弊社のモノ作りのビジネスモデル

5.2 セールスサイド 日本古来の鵜飼漁モデル

飼い慣らした鵜を巧みに操って鮎などの川魚を捕える鵜飼漁と似ている。販売会社(鵜)を操ってロイヤルティ(鮎)を受け取る方式である。

図1は、セールス部門をもたない弊社が、いかにして開発製品を市場に届けるかのモデルである。帰国後、岐阜県の研究所で利用したいむね許可がほしいとのことで、もちろんOKした。

ビジネスモデル(販売サイド)最終

図1 セールスモデル

6 台湾への提案

売れる人間工学商品の共同開発を進めたい。まずは、2018年3月に東京での会合を提案した。

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